くろのぴーすのテレスコープ第2回
ウェブクロノスでの「テレスコープ」の連載を宣言してから、時間が経ち過ぎてしまいました。単純にクロノセオリー銀座開店のお手伝いに多大な時間を費やしてしまったからです。
ところが、第2回目の原稿を提出した翌日、突然連載が打ち切られました。私が、クロノセオリーというインポーター業、小売業に関わったからとのことです。私自身、クロノセオリーのプロデュースに携わろうとも、これから先も「売り手」ではなく「買い手」であり続けることを公言して、口だけではなく書い続けて有言実行おりますが、私がウェブクロノスに書き続ければ、おそらくメディアとして収入源となる他の「売り手」企業に対して示しがつかないからでしょうか。とにかくそういう立場の者に直接書かせるわけはいかないとのことで、突然の打ち切りは残念な限りです。しかし、そのことに対しては私も完全に納得が行きますので、特に異論も遺憾もないのですが、勿体無いのは1時間弱をかけて書いた原稿です。
ということで、この先テレスコープをここクロノセオリー公式サイトに移設して、そのまま継続することにしました。まるで、様々な事情で掲載誌を鞍替えした漫画家のような気分です。ところで、ガイバーって今どこで連載されてるんでしたっけ?いずれにせよ、今後はここクロノセオリー公式ウェブサイトでテレスコープをよろしくお願いいたします。
さて、話を戻しましょう。クロノセオリーでの自分のコレクション展示のためにテーマを考えていたところ、改めて自分がブルーの腕時計を大量に所有していることを認識しました。スイス数社から出たくろのぴーすエディションが宇宙をイメージしたブルー基調であることは当然自覚しておりますが、いかんせんブルーが多い。一旦他の色を買ってみたりしてもブルーに回帰してしまいます。
実際にオーデマピゲのロイヤルオークやヴァシュロンコンスタンタンのオーバーシーズなど、ご存知の通りブルーが一番人気で入手困難になっています。
ではなぜ、我々はここまでブルーに惹かれるのでしょうか?
私は常日頃から、腕時計に宇宙を感じると言い続けています。あの小さなケースに、人の知恵とそれを凝縮した機械が詰め込まれ、回転しながら時を刻んでいるからです。
しかし、すべての人がそう感じているわけでもなく、ここはブルー自体について探ってみるべきと、色々と資料を読み漁ってみました。
調べたところやはり、ブルーは海と空とを想定させる誰にも親しみのある色とされています。海と空、そしてそれがつながる宇宙は、当然ながら我々すべての生命の始まりと終わりを意味するところです。空気も青いとするのであれば、ブルーは生まれた瞬間に最初に見る色であり、命が途切れる直前に見る色なのかも知れません。
また、ざまざまな色と見比べてみたところ、ブルーは陰影が引き立つ適度な明度を持っており、立体的に奥行きを表現しやすいようです。実際に私がデザインしたローマンゴティエ、マイクロローター・インサイトくろのぴーす限定エディションでは、たった3つのブルーだけでかなりの立体感を実現できています。
もう一つ、どのような素材の腕時計ケースにも合わせやすい万能色であると思われます。ステンレススチール、チタン、イエロゴールド、ピンクゴールド、ホワイトゴールド、プラチナだけではなく、PVD、CVD、DLCコーティングといった漆黒、カーボンといったマット色にもよく合います。
人の目には赤、緑、青の波長をそれぞれ読み取るセンサーのような細胞が備わっていますが、三原色の中では青色が最も波長が短いものです。かといって、腕時計で見えているブルーがその青色だけで構成されているとは限らないのですが、青色の波長がこれ以上短くなると紫外線になり「命を滅する」光線になってしまうことにもなにか宇宙的なものを感じます。ブルーは命の源でもあり、それを死滅させる怪奇光線でもあるのです笑。
いずれにせよ、ブルーは心が落ち着く静かで冷たい色であると同時に、なぜか心には暖かい壮大な色でもあります。過去に色に詳しい方に聞いたのですが、人間が最も安らぐ絵画は「ブルー」と「人」をモチーフとしたものであり、それをまとめて「水辺の人」という構図が最も心地良く感じるそうなのです。
さて、ここで私のブルー腕時計コレクションを見てみましょう。実際には数十本以上がブルー関連色なのですが、バリエーションの幅を持って8本をピックアップしてみました。
- Patek Philippe World Time 5930G-010
- Voutilainen 28C
- Roamin Gautheir Micro Rotor Insight くろのぴーす限定エディション
- Ludovic Ballouard Upside Down Lapis Lasuli Limited Edition
- Moser Swiss Alp Watch Funky Blue
- Laurent Ferrier Galet Micro-Rotor Azure
- Audemars Piguet Millenary Philosophique
- Chronoswiss Skeltec Blue Spark くろのぴーす限定エディション
- ヴァーグのギョーシェ彫のダイアルに、違うトーンのタイムゾーンリングと第二時間帯時刻リングが絶妙なバランスを生み出しています。情報量が多いのにも関わらず全く煩雑さを感じさせない。まさに地球のよう。
- 勝手に世界一のギョーシェ文字盤と呼んでます笑。ヴティライネンのギョーシェ加工って、深いと同時にエッジがとてつもなくシャープなんです。ですから、見た目の引き締まり方がたまらない。
- ゴティエ氏と何度もやりとりして、3つの「初めて」を試していただいて、宇宙の奥行きを表現しました。初めての自社工房製ライトブルーエナメル、初めてのブルーPVDブリッジ、初めてのネイビーラバーストラップ。
- 加工が難しいラピスラズリを文字盤に採用した6本限定の本作。そもそもこの石自体が地球っぽくて、前から好きでした。天然石の表情は同じものがなく、腕時計に神秘的な個性を加味してくれます。
- モーザーが得意というか、ブランドの看板にもなっているフュメエナメル文字盤。その中でもグラデーションが美しいこのファンキーブルーは、角度によって様々な花を咲かせる様子が本当に美しいです。
- 古典的な作りと繊細な仕上げを得意とするフェリエさんですが、ホワイトゴールドの超繊細な針などと裏腹に、時折こういったポップなカラーも採用するところが粋です。この色はアズール、すなわち紺碧です。
- 私は勝手に「雪平なべ文字盤」や「スチールドラム文字盤」と名付けていますが、公式ホームページにも「Hammering Like Dial(ハンマリングした風な文字盤)」と謎な表記がされています。
- こちらはPVDともまた違うCVD技術の蒸着によって実現した鮮やかなブルーです。黒との組み合わせだけでかなりのコントラストとなっており、「宇宙の闇と光」を表現しています。
いかがですか?あなたはどのブルーに、どんな感情や感覚を抱きましたか?
青色には、どうやら慎重になるという効果もあるらしく、ブルーのLED照明が実際に無人の駐車場に採用されて犯罪率が低下したり、駅の構内に設置されて人身事故率が減ったりという結果が出ているようです。このブルー腕時計たちのおかげで、私もかなり心安らいでいるはずですよね(謎。
そういう意味では、落ち着くという「枠内の秩序」を感じるのにも関わらず、宇宙のような「壮大な混沌」を感じさせるため、その相反する感覚の組み合わせが自分を中と外との両方から見るような不思議な感覚に陥らせます。
そのほか、実際に写真を見ていただくとお分かりいただけるように、青という色はハイライトとシャドー共に陰影として、立体的に腕時計を引き立てる適度な明度を持っていることがわかります。いずれにせよ、ここまでウンチク書いてみたのに、ブルーは見ているだけで単純に美しいではないですか!笑
実際に青い服を来ていると、体感温度が数度下がるらしいですよ。冷静に落ち着くのに、なぜか心温まるとという矛盾。内側に吸い込まれる感覚と、外側に広がっていく感覚という矛盾。我々が生まれた海や宇宙をDNAが懐古しまうのでしょうか?
例えるならブルーは、自分が見るものの波長を小さく抑えながら、奥行きを持って感じる時間の揺らぎをよりはっきりと感じさせてくれる、最高の心の歩度調整機かもしれません。まさに、腕時計そのものですよね。
なお、この8本は2021年3月3週目ほどまではクロノセオリーに展示しておきますのでぜひご覧ください!
あ、そうだ。これを読んだ方は、ブルーの腕時計を着けた写真とともに、ぜひ感想をSNSでおしらせください。そうです、あなたという「人」+ブルーの「水際」=すなわち最も心が安らぐ写真の構図のはずですから。