輝く人と腕時計と。STAR ON WRIST
第1回 河村隆一の中心
僕は、真ん中にあるものを知りたいんです。
普遍と変化との間に、ものごとの中心の幅を見出す河村隆一さん。
それを客観視するための人生のパートナーとして、常にパテックフィリップが共にある。
今までに失敗がないと言い切る、その腕時計選びに対する信念とは? 音楽作りに通ずるところとは?
一旦気になると、とことん掘り下げねば気が済まないという、河村さんの腕時計遍歴を広田雅将が紐解く。
Photos 奥山栄一 Eiichi Okuyama
Hair&Make-up 荒木久子 Hisako Araki
Words 広田雅将 Masayuki Hirota
河村隆一と言えば、誰もが知るアーティストの一人だ。彼が時計好きであることは知っていたが、なぜ時計が好きなのか、どんな時計を持っているのかは、当然わからなかった。そんなある日、くろのぴーすさんから連絡をいただいた。
「河村さんのインタビューをやりませんか?」
都内某所に現れた河村隆一は、聞きしに勝る、本物の時計好きにして、正真の目利きだった。
機械と音との交わり
「小学6年の時にセイコーかシチズンの時計をもらったのは覚えています。でも、時計やアクセサリーは買わなかったですね。僕が時計にハマるようになったのはデビューしてからです。テレビで『マリーアントワネットやヴィクトリア女王の使った時計メーカーはどこどこ』みたいな番組を見たり、先輩からも『時計は一生物』と言われて、色々調べるようになってからですね。」
彼が最初に手にした本格的な時計は、意外な人物からのプレゼントだった。
「最初に手にしたのはブライトリングのクロノマット。1940年代の物で、西城秀樹さんからのプレゼントでした。」
以降、彼は時計趣味を加速させる。
「その後、26歳か7歳の時に、ヨーロッパでブレゲのスケルトン・トゥールビヨンを買いました。ヴァシュロン コンスタンタンのマルタ・スケルトン・トゥールビヨンも手に入れましたね。最初はスケルトンが好きだったんですよ。メカっぽいから(笑)。」
昔から機械物は好きだったと語る河村隆一は、今やパテック フィリップの愛好家である。
「音楽をやっているから、音で時間を知らせるミニッツリピーターには興味があったんです。そしたら、一番音がいいのはパテック フィリップのミニッツリピーターと言われる。一番いいのは気になるじゃないですか。でも、値段も分からないし、物も見られないし、オークションを見ても本物なのか分からない(笑)。」
彼は高級時計店として知られる銀座のアワーグラスを訪問し、以降パテック フィリップの世界に触れることになる。しかし、ヴィジュアル系というほかにないジャンルを打ち立てた彼が、パテック フィリップという老舗を好むとは意外だ。もちろん彼のことだからブランドで選ばなかったのは分かる。しかしなぜなのか。
中心のパテックフィリップ
「僕は、真ん中にあるものを知りたいんです。みんなにとってのど真ん中って何なんだろうって。音楽の進行にしてもメジャーコードというものがちゃんとあるし、聞けば分かる。売れるアーティストたちは、ミスチルにせよ、ドリカムにせよ、真ん中にある物をちゃんと見てるんですよね。中心を見ているから、端っこも分かる。端っこからの視点だけだと、中心がずれていくでしょう? これは音楽だけじゃなく、料理も時計も同じじゃないかな。」
河村隆一が、ヴィジュアル系の第一人者であるのと同じぐらい、敏腕なプロデューサーであると思えば、彼の「真ん中」志向はなるほど納得だ。
「人って飽きるんですよ。僕も500曲ぐらい書いてきて、時々飽きることがある。だから新しいことをやる。でも中心があり、本当に得意なことが、支持を集めてキャリアになっていく。そして、失敗を繰り返しながら新しいスタンダードを作っていく。だから、何が普遍なのかは知りたいんです。これは昔からずっと変わらないですね。時計も同じでしょう?」
彼は、音楽を話しているようで、人生と時計を語っている。では、時計で普遍性のあるものはなんでしょう?
「パテック フィリップだけでなく、ブレゲなどかな。」
パテック フィリップと出会った河村隆一は、音楽に対するのと同じく、ストイックな姿勢で時計に向かい合った。
「昔、パテック フィリップのカタログを読むときは、それぞれのページをめくる時間を同じにしたんです(笑)。何が自分にとってのスタンダードなのかを、ちゃんと…
続きはクロノセオリーマガジン本誌でご覧ください。